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公立学校共済組合 関東中央病院

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病気のはなし

便のはなし

外科医長 河合 宏美

 生物が生命をもって存在するための必要不可欠な行為とは、「食べる」と「出す」ことです。地球上に存在する生命体、プランクトンも、魚も、動物も、ヒトも同じことをして生きています。「食べる」「出す」が満足にできなくなれば、生命を維持することも難しくなります。「食べる」ことに関わる問題には、咀嚼や嚥下など、歯・ロ・のどの問題から、胃腸での消化機能のトラブル、そして心の問題、食べる手段の問題などがあります。

 「出す」ことに関わる問題には、出すぎるのか、出ないのか(いわゆる便秘か下痢か)、 出てくるものが悪いのか、出方が悪いのか。排便にかかわる問題は意外に複雑でたくさん あるのです。

①便とは?

 便は、おおよその成分として、水分70%、食べ物のカス10%、腸粘膜のカス10%、大腸菌などの腸内細菌の死骸10%によって構成されています。
 最近では、健康管理、美容、ダイエットのための指標としても注目されています。腸内に住む細菌の種類や数が、肌荒れ、体重の増減、食事内容の管理、病気の発生などに影響することがわかってきており、便中の細菌の種類やその数を調べて、何が足りないのか、どんなことに注意すればよいのか教えてもらえる、腸内フローラ検査というのもあります。(当院でも検査が受けられます。費用は2万円前後。)

②どんな便がよいのか?

 便の観察で大切な3つのポイントは、形・色・においです。
 ブリストル便形状スケールという便の分類が、1990年にイギリスで発表されました。便を硬さ別に7種頬に分類、客観的に判断することができます。
スケール3. 4. 5が正常な便とされていますが、「切れていないソーセージ」、もしくは「なめらかなバナナ」が理想的です。

 腸内の善玉菌がたくさん酸を作っていると、色は黄色から黄色がかった褐色で、においがあっても臭くありません。黒っぽく、悪臭がある便は、腸内細菌のバランスが悪くなっている可能性があります。
 本当の病気にかかった時は、下表のような便が出ます。赤、白、緑、黒は要注意です。

③腸内細菌とプロバイオティクス

 ヒトの大腸には約1000種類、100兆個の腸内細菌が生息しています。(腸内細菌叢、腸内フローラとよばれています)善玉菌と悪玉菌、その中間の菌の3つのグループに分けられます。
 プロバイオティクスとは、「十分量を投与すれば、腸内細菌のバランスを改善することにより、宿主の健康に利益をあたえる生きた微生物」のことで、乳酸菌、ビフィズス菌などのことです。食品ではヨーグルト・乳酸菌飲料・納豆・漬物などに含まれています。長期間腸内に滞在できないので、毎日続けて摂取することがすすめられています。腸の動きを良くする、炎症を抑える、免疫を調整するなどの作用があります。悪玉菌は、タンパク質や脂質の多い食事・不規則な生活・ストレス・便秘などによって腸内で増えます。善玉菌を増やすことが健康管理には大切です。

④便秘について

 便秘とは、そもそも病気なのかどうか、どんな状態が便秘なのか?便秘にはさまざまな原因と症状があります。問題となるのは、慢性的な排便障害「慢性便秘症」であり、慢性便秘症の患者数は日本中で1000万人以上といわれています。高齢化がすすみ、患者数は日々増加しています。
 便秘とは、「本来、体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。便秘は、1.便が硬くて出ない 2.腸の動きが悪くて出ない 3.物理的な障害があって出ない、の大きく3つに分類され、原因には、食事や薬剤、習慣、腸の蠕動運動の問題などとさまざまです。注意しなければならないのは、便秘が致命的な疾患の原因や結果となっている可能性があるということです。便秘が原因の疾患として、憩室炎、腸閉塞、直腸潰瘍、便秘による結腸穿孔(腸がやぶけてしまうこと)、また、便秘をひきおこす疾患として、大腸癌、手術後後遺症による癒着、 腸重積、直腸瘤、肛門狭窄などという疾患が挙げられます。たかが便秘、と思われがちですが、大腸の途中で便が詰まりすぎて、腸が血流障害を起こして腐ってしまい、緊急手術でいたんだ大腸を一部切り取って縫い直さなければならないこともあります。また、直腸内で 便が岩のように大量につまって、激しい肛門痛を起こし、大至急便を摘出しなければならないこともあります。

⑤理想の排便とは?

 健常人の排便は平均数十秒です。体の大きさにかかわらず、ほ乳類の排便時間は平均12秒といわれています。恥骨直腸筋のゆるみと腹圧により、いい便はごく軽いいきみで短時間に排便が可能です。軽いいきみで短時間の排便が理想的です。

⑥どんな時に受診すればよいのか?

 急激に排便回数が減った、健康診断でバリウムを飲んだあとで便が出ない、血液の混じった便が時々出る、肛門痛がある、腹囲が増えていく、排便時にお腹が痛い、体重が減っていくなどという症状があれば受診が必要です。排便のたびに力いっぱい、いきまなければ排便できないという方も、受診をおすすめします。

⑦便秘の時は何科を受診すればいいのか?

 当院での大腸内視鏡検査は、消化器内科、光学診療科、外科のいずれの科でも対応ができます。下剤の処方や便の相談も、いずれの科でも可能です。ただし、便秘の裏に重大な病気がかくれていないかどうか調べる必要がある場合もありますので、長期にわたって改善がない場合は、診察や検査をおすすめします。

詳しくはこちらの診療科にて