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病気のはなし

尿失禁②~腹圧性尿失禁編~

2024年3月

部長 大矢 和宏

以前(20218月号)の切迫性尿失禁に続きまして、また尿失禁のお話です。今回は腹圧性尿失禁:お腹に力が入るとき、例えば椅子から立ち上がったり、階段を上がったり、はたまた、笑い転げたり、カラオケで熱唱したりした時に尿がチョロロッと漏れるあれです。(阪神、岡田監督ではありませんがあれです。)人間が二足歩行、立っての生活を始めた事の宿命です。四つ足の動物と違い、骨盤の底(骨盤底筋群)に負担がかかります。更に女性においてはお産、加齢により、骨盤底筋が弱ると起こり易くなります。男性では主に前立腺癌の手術後起こる事が多いです。と言う訳で、こちらも男女ともに患う可能性がある病気です。

診断:こちらもいわゆるQOL疾患ですので、自覚症状が重要です。つまり困窮度:困り具合を重視します。やはり、他の病気との区別、他のタイプの尿失禁との区別のため、泌尿器科外来にて検尿、超音波検査、残尿測定等を行います。手術等の必要性がありそうな場合は追加で膀胱の造影検査、膀胱機能検査、はたまた、尿道内圧検査(尿を漏れないようにしている括約筋が弱っているかを調べる。)を行います。
治療:切迫性尿失禁と違って尿失禁体操・骨盤底筋訓練はとても有効です。言ってみれば弱った筋肉のリハビリです。肛門を締めるようにして膣を体の中に引き込むような感じで行うなど、その方法、指導はインターネットや各種パンフレットに多く記載されており、目にした方も多いかと思います。尿を我慢する膀胱訓練は漏れを助長しますのであまりお勧めではありません。
お薬の治療ですが、過活動膀胱の治療薬もある程度は効果を発揮しますが、括約筋に力をつけて、尿道を締めさせるクレンブテロールが有効とされています。この薬は気管を広げる効果もあり、ぜんそくの薬としても使用されます。人間の体って面白いですね。片方では広げる薬が一方では締める様に働きます。この事は医科大学で薬理学を学んでいれば当然の事と解ります。薬理学(基礎医学)の妙ですな。ただこの薬を喘息の人に長期間使うと、いざ喘息発作時は効かなくなってしまいますので注意が必要です。しかし現在このお薬は品薄となっております。代替薬はあまりなく、アドレナリンを使って尿道を締めるお薬もありますが、血圧が上がってしまう可能性があります。
漢方薬が効果を発揮するとの報告も見当たります。ただこれも血圧上昇の危険はあります。(漢方薬についてはまたの機会にお話しさせて頂ければと思います。)
これらの治療で効果が不充分な場合は手術を行う事もあります。まず、女性の場合は骨盤底筋が緩んで膀胱・尿道が下の方に落ち込んでいる場合がほとんどなので、膀胱造影等を経て、尿道を下から支えるような手術を行います。昔はお腹から針を刺して人工血管を使って尿道を持ち上げる術式(ステーミィー法と言います。ステーミィー先生は外国の方ですが、日本で一部工夫を加えた術式もあり、私も一部開発に関わり論文化されております。ステーミィー変法と言います。オリジナルではなく、日本得意の応用編です。)もありましたが、今は膣から入って、テープで支える方法が主流になっています。
男性はほぼ前立腺の術後の場合が多く、尿道括約筋が傷つけられており、その補強・修復を行います。尿道括約筋が完全に失われている場合は人工括約筋の埋め込みなどもありますが、異物を体内に入れるので、それなりに危険・合併症はあります。当院で良く行っているのは自己脂肪注入術です。美容形成外科でも行われている脂肪吸引術と同じく、腹部から針を刺して(お腹は切りません。)採取した脂肪を尿道近くの括約筋に自分の脂肪を注入するのですが、それにより尿道が締められて尿失禁が改善します。括約筋の補強です。美容形成外科に比べると採取する脂肪の量は段違いに少ないので美容的意味合いはありません。痩身効果、お腹が引っ込むという事はありません。この手術を私が当院で行ったときは多数のギャラリーがいましたが、あまりに地味な作業の為その数は徐々に減っていきました。結構疲れる手術ですが、効果はかなりあると信じております。この手術は一種の自家移植であり、拒絶反応は原則起こらないと考えられます。更にここが味噌ですが、脂肪組織は体内の他の部位よりも多くの幹細胞(周りの影響でいろんな組織・臓器になれる細胞)が含まれており、その細胞が行く行くは括約筋になっていく事も期待できます。つまり括約筋の修復、再生です。某大学の先生が幹細胞による尿失禁の治療を世界で初めて開始したと言ってインターネットに出しておりますが、私はかなり以前よりこの手術を手掛けており、良好な結果を得ております。しかし問題点は手術直後には尿道への圧迫効果で失禁は改善したように感じますが、時間とともに脂肪は吸収され、効果の実感が薄れてきますが、今度は幹細胞による尿道括約筋の修復効果で失禁の改善が望めます。ただ、尿道括約筋の修復効果を望むにはこの手術を数回繰り返す必要があります。前立腺癌の手術で出来る限り癌を取ろうとすると尿道括約筋を傷つける事はあるかもしれませんが、この手術で失禁の改善も望めます。
尿失禁を恐れて、手術を避ける方もいらっしゃいますが、それについても治療法があり、癌が根治する可能性があるのなら、手術を受けるのも一つの選択肢だと思います。QOLも大切ですが、命もまた大切かと思います。また、最近のロボット支援下の手術では神経、括約筋もかなり温存:傷つけなくなっており、術後の尿失禁の割合もかなり減少しております。

詳しくはこちらの診療科にて

泌尿器科

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