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病気のはなし

メンタルヘルス不調(精神疾患)にも流行がある?~精神科診断にみられる流行について~

2023年8月

医長 秋久 長夫

令和5年5月8日から新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に移行し、さまざまな制限が緩和されようやく日常が戻りつつあります。ほとんどの方が初めてこのような規模のパンデミック(世界的大流行)を経験したわけですが(「スペイン風邪」は約100年前)、今回はメンタルヘルス不調(精神疾患)にみられる流行について、おはなししたいと思います。とはいえ、そもそも感染症の流行と精神疾患の流行とは根本的に異なります。同じ「流行」という言葉で表現することが適当かという問題はおくとして、まずは「うつ病」についてみてみましょう。

日本では1950年代後半より「ノイローゼ」という言葉が医学的診断としても日常用語としても流行していたそうです。それと鑑別するために、同時期から「うつ病」が広まり始めたと言われています。それまでも、躁うつ病のうつ病は知られていましたが、この頃から、躁うつ病と分けられたシンプルな「うつ病」の呼称が徐々に定着したようです。この「うつ病」の広まりには、1959年に世界初の抗うつ薬(イミプラミン)が国内で販売開始された影響があったと考えられます。この抗うつ薬が、「うつ病」に非常に良く効くために、「うつ病」が脚光を浴び、「ノイローゼ」との鑑別が重要になったわけです。そしてその40年後に発売された新規抗うつ薬(SSRI)の影響も無視できません。本邦におけるうつ病患者数は、1999年頃までについてみると約44万人程度でしたが、その後に急増し2008年には100万人を超えました。その後も少しずつ増えていましたが、今回のパンデミックの影響で、2020年の「うつ病・うつ状態」の人の割合が2013年のデータの2倍以上に増加したそうです。米国、英国など他の先進国でもパンデミック以降、同割合が2~3倍に増えたそうです(経済協力開発機構OECDの調査)。しかし、本当に「うつ病」がそんなに増えているのでしょうか。実際には国際的な診断基準の影響などで、本邦における従来の「うつ病」概念(※)が徐々に拡がる方向に変化してきて、それまでは「うつ病」と診断されていなかった多くの方々が含まれるようになったために増加したというのが実情だと思います。私が診療してきたこの20年くらいは、まさに急増したとされる時期と重なりますが、少なくとも従来の「うつ病」に相当する方が増えたという印象はありません。ちなみに厚生労働省の患者調査の資料を見ると気分障害(うつ病が含まれる)の入院患者数はこの20年間、あまり変わっていません。

さて、次に「発達障害」についてみてみましょう。2000年以降に耳にすることが増えた診断と言えば、この発達障害が思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか。発達障害には、広汎性発達障害(自閉スペクトラム症ASD)、注意欠如多動症(ADHD)などが含まれます。文部科学省の調査によると障害に応じた通級に通うASD児童数は2009年から2019年の間に3倍に、同ADHD児童数は10倍に増えたそうです。子供の数が年々減少していることを考えれば、増加傾向がより顕著であることが分かります。また大学、短大などに通う障害のある学生のうち発達障害の学生の割合はここ十数年で10倍になっているそうです(日本学生支援機構の調査)。2023年4月には、米国でも過去16年にASDが5倍に増加したとNYポスト紙で報じられました。「ADHD大国アメリカ つくられた流行病」なる本も出版されており、いずれにおいても「過剰診断」ではないかと批判的な見方がなされています。発達障害は生まれつきの特性ですので、事実上、こんなに短期間で有病率が急上昇することは考えにくいです。この20年間に診断概念が浸透してきて、そのように診断される方が増えたものと思われます。ADHDに関しては上記著書において薬物の過剰投与も批判されていますが、反対に診断が見過ごされることも問題です。ADHDでは薬物が著効し、QOL(生活の質)が劇的に改善することが珍しくないからです。また、発達障害は定型発達(健常者)と連続しており「グレーゾーン」の問題も指摘されています。山に例えれば、山頂付近が典型的なASDで裾野は定形発達に近い人たちというイメージです。そして、便宜的に5合目以上の方をASDと診断しているということになります。しかし、4合目の方でも、その特性故の苦悩を抱えていることが多いと思われます。かかりつけ医から発達障害だからと専門的な病院にかかるよう指示され、専門病院で発達障害ではないと診断され、追い返されてしまうと、そのような方達は行き場を失ってしまいます。そのような方達を少なからず見てきましたが、今後も増えていくかもしれません。

という訳で、精神疾患の診断にも流行すたりがあることを知っていただけましたでしょうか。医学的診断ではありませんが、「アダルトチルドレン」や「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」などについても当てはまるかもしれません。そう言えば20年前には比較的多かった、「境界性パーソナリティー障害」の方を見る機会は激減したように思われます(あくまで個人の感想です)。また、最近では「適応障害」の診断を目にすることが増えたように感じますが、これについては別の機会におはなししたいと思います。

(※)「内因性うつ病」とも呼ばれていました。
過去に掲載した「病気の話:メンタル(心)を病むということ」を御参照下さい。

詳しくはこちらの診療科にて

メンタルヘルス科

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