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病気のはなし

静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症)

2020年8月

明城 正博

「静脈血栓塞栓症」とは

静脈血栓塞栓症とは、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症をまとめた呼び方です。いわゆる「エコノミークラス症候群」と表現すると分かりやすいかもしれません。エコノミークラス症候群は、航空機利用に伴って生じる静脈血栓塞栓症のことを指す呼び方です。以前は、静脈血栓塞栓症の発生は、欧米と比較して日本では少ないとされていましたが、最近では、大きな差はないと考えられるようになっています。
深部静脈血栓症は、四肢の筋肉内の深い部分を走行する静脈内、それらから連絡する胸部、骨盤内、腹部の大きな静脈内にかけて血栓(血液の固まり)が生じる病気です。血栓が生じる部位の大部分は、下肢から骨盤内にかけてです。静脈内の血栓が次第に大きくなると、静脈の壁からはがれ、血液の流れに沿って移動することがあります。移動した血栓は、心臓の中を経由して肺動脈まで移動します。こうして、肺動脈が血栓により閉塞するのが肺血栓塞栓症という病気です。肺血栓塞栓症の約90%は、下肢または骨盤内の静脈内で生じた血栓が移動して起こります。

原因

静脈内に血栓が生じるのには、①静脈の血液の流れが停滞している、②血液が固まりやすい状態になっている、③静脈の内側の細胞が障害されている、という3つの成因が関係するとされています。
上記の成因①については、長時間の同一姿勢や脱水などが関係することが多くあります。エコノミークラス症候群を起こす航空機利用が代表的です。日本では地震災害が多く、地震災害の際の避難所生活で多く報告されており、特に車中泊が問題となります。骨折時のギプス固定が関係することもあります。同一姿勢をとらずに、特に下肢を適度に動かすことが予防につながります。
成因②については、経口避妊薬、ホルモン剤などの薬物が原因となることがあります。また、悪性腫瘍(いわゆる「がん」です)が血液を固まりやすくすることがあることが知られています。抗がん剤の中には、血管の細胞の障害を起こすものもあり、成因③に関わってきます。がんに対する治療が発達し、がん患者さんの予後が改善された昨今では、「静脈血栓塞栓症」の合併に対してのより一層の注意が必要となっています。

症状

「深部静脈血栓症」の症状は、下肢の腫れ、痛み、色の変化が挙げられ、片側のみの症状であることが一般的です。症状がない場合もあります。「肺血栓塞栓症」を起こすと、軽症で症状がないこともありますが、息切れ、胸痛などの症状があります。より重症になると、血圧低下、意識消失をきたすこともあります。「深部静脈血栓症」のみで命に関わることはありませんが、「肺血栓塞栓症」を起こすと、命に関わることもあります。

治療法

「静脈血栓塞栓症」が疑われた際には、心電図検査、胸部レントゲン検査、採血検査などの一般的なものに加えて、血管を観察する超音波検査、造影剤を用いたCT検査などを行います。いずれも外来診療の範囲内で行うことのできる検査であり、外来で来院された患者さんの場合、外来で診断することが可能です。
「静脈血栓塞栓症」の治療では、抗凝固薬という、血をサラサラにして固まりにくくするお薬が治療の主となります。より重症となれば、血栓を溶かす薬が必要となったり、大きな血栓が肺動脈に移動するのを予防するためのフィルターという治療器具を腹部の太い静脈の中に留置したり、カテーテルを用いて肺動脈の血栓を破砕したりする治療の追加が必要となることもありますが、ほとんどの症例では、抗凝固薬のみで治療を行うことができます。ひと昔前(10年以上前)では、入院して点滴の薬による治療を継続しながら、内服薬の効果が出てくるのを待つ必要がありました。しかし現在では、新しい内服薬が使えるようになったため、肺動脈の血栓を伴わない、もしくは血栓が軽微な軽症の症例では、内服薬のみによる外来治療が可能な場合もあります。

予防法

以上、「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症)」についておおまかに書かせていただきました。予防が大切な病気の一つと言えます。夏の暑い時期は汗をかく量も増え、脱水に陥りやすい時期と言えます。熱中症の予防だけでなく、「静脈血栓塞栓症」の予防にもつながりますので、こまめな水分摂取を心掛けていただくことをお勧めします。また、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響で、外出を自粛し自宅で過ごす時間が増えたかもしれませんが、「静脈血栓塞栓症」予防のためにも、自宅内であっても無理のない範囲で適度に下肢を動かして筋肉を使うよう心掛けてください。

静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症)

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循環器内科

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