病気のはなし
風疹はもう大人の病気です
昨年4月号のこのコラムでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて風疹をなくそう、という「風疹ゼロ」プロジェクトをご紹介しました。その後世田谷区の助成制度を利用して風疹抗体検査やMR(麻疹風疹)ワクチン接種に来てくださった方もおられます。ではこの1年で「風疹ゼロ」が実現する日が見えてきたのでしょうか?残念ながらその日はまだ先になりそうなのです。
風疹の流行が続いています
日本では2019年5月時点でまだ毎週数十人の方が風疹と診断されており、国立感染症研究所のホームページでも風疹急増に関する緊急情報がトップ項目になっているぐらい風疹が流行しているのです。その結果、2019年に入って2人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断されたと報告されました。妊娠中(特に妊娠初期)に風疹ウイルスに感染したお母さんから胎児にも感染がおき、赤ちゃんに白内障や緑内障、先天性心疾患、難聴が引き起こされたのです。風疹はかかってしまうと治療法がありませんがワクチンで予防できる感染症です。ただしこのワクチンは、残念ながら妊娠中は接種できないタイプのワクチンなのです。ですから日頃の感染予防、日本からの風疹ウイルスそのものの排除がとても大切になります。
妊娠中は日本への渡航自粛を?!
アメリカ大陸では2015年に、オーストラリアでも2018年に風疹の根絶が宣言されています。一方日本では上記のように流行が続いていることから、アメリカの疾病対策センター (CDC) は予防接種歴や風疹への感染歴がない妊娠中の方は日本への渡航を自粛するよう勧告を出しています。CDCの出す渡航警戒レベルは3段階あるのですが、風疹に関する勧告はそのうち2番目の重要度で、なんとコンゴのエボラ出血熱流行に対する勧告と同じレベルなのです。日本で妊娠中の方はそれほどまでに警戒が必要な状況の中で過ごさざるを得ないことに、わたしたちは大きな危機感を抱いています。
2019年に風疹と診断された方の94%は成人で、男性が女性の約4倍にのぼりました。風疹は子どもからうつるものと考えられていたのですが、現在は大人の感染症で、特に30〜40代の男性が中心なのです。原因は、その世代の男性にワクチン接種の機会がなく風疹の抗体が不十分な人が多いからです。
年齢と風疹ワクチン接種歴の目安(2019年4月1日現在)
1990年4月2日以降生まれ (〜28歳) |
2回接種対象 |
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1979年4月2日~1990年4月1日生まれ (29~39歳) |
1回接種対象だが接種率は低い |
1962年4月2日~1979年4月1日生まれ (40~56歳) |
男性:※接種の機会なし 女性:中学生時に1回集団接種 |
1962年4月1日以前生まれ (57歳~) |
接種の機会なし (ただし自然感染で抗体を持っている人が多い) |
風疹ワクチンについて:世田谷区民の方
①1962(昭和37)年4月2日から1979(昭和54)年4月1日生まれの男性 2022年3月31日までの間に限り予防接種法の定期接種となったため、1人につき1回まで、風疹抗体検査・定期予防接種が無料で受けられます。全国の指定医療機関で受けられます。なかなか医療機関を受診しづらい多忙な年代の方々ですが、健診やドックのついでに、など事業体でもぜひ協力していただければと思います。
世田谷区では昭和47年4月2日から昭和54年4月1日生まれの方にはすでに風疹抗体検査・定期予防接種のクーポン券が送られているはずです。それ以外の対象の方は世田谷保健所感染症対策課に申請してください。(区のホームページから電子申請もできます。)
②妊娠を希望する女性とその同居者、風疹抗体価が低いことが判明している妊婦さんの同居者
・風疹抗体検査
一人1回に限り風疹抗体の検査が全額助成されます。風疹の予防接種を受けたことがある方など対象にならない方もいらっしゃいますが、事前に世田谷保健所感染症対策課に連絡をし、助成券をもらってから世田谷区の指定医療機関を受診してください。
・風疹予防接種
妊婦健診等も含めた風疹抗体検査の結果、風疹抗体価が低かった方には、風疹予防接種費用の一部が助成されます。指定医療機関に助成券がありますので抗体価を証明できるものを持って世田谷区の指定医療機関を受診してください。事前申請は要りません。
予防接種には風疹ワクチンとMR(麻疹風疹)ワクチンがありますが、成人では麻疹(はしか)の抗体が少ない方も多いので、MRワクチンの接種をお勧めします。(※妊娠中はこれらのワクチンは接種できません)。
当院も指定医療機関になっています。風疹抗体の検査も予防接種も可能ですから必要な方は受診し、できるだけ早く風疹をゼロにしましょう!(世田谷区以外のほとんどの自治体で同様の助成が受けられます。詳しくはお住いの自治体の保健所にお問い合わせください。)
“風疹ゼロ”プロジェクトメッセージ2019
■30〜50代の男性に強く訴えます!
あなたがかかった風疹が職場、家庭で妊婦に感染させる危険性を自覚してください。
(あなた方の世代に風疹患者が特に多く発症しています)
■全国の事業体と一般の皆さんに強く訴えます!
風疹抗体検査、予防接種(MRワクチン)がこの世代に実施されるようただちに行動をとってください。
詳しくはこちらの診療科にて