病気のはなし
アルツハイマー型認知症について
はじめに
1980年代から2000年代にかけて、日本人の65歳以上の高齢者における認知症有病率は3.8〜11%と報告されており、増加傾向にあります。全国8市町で行われた調査では2012年時点での高齢認知症者は462万人と推計され、有病率は約15%と報告されています。また、このままの割合で推移すると仮定した場合には、2025年の認知症者数は675万人に増加すると推定されています。
脳神経内科は脳や神経の病気を扱う科です。当科でよく相談される症状は頭痛、手足の痺れ、ふらつき、力が入りにくい、呂律が回らないといった症状が多いのですが、特に最近は物忘れや認知症を疑って(疑われて)受診される患者様が増えています。
アルツハイマー型認知症はどんな病気?
2010年代前半の全国調査による認知症疾患の割合はアルツハイマー型認知症が67.6%で最多であり、次いで脳血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症/認知症を伴ったパーキンソン病が4.3%でした。
最も多い認知症疾患であるアルツハイマー型認知症は、厳密には死後に病理解剖されて診断が確定する疾患ですが、早期診断をして治療を導入、生活のサポートをするために臨床診断基準が設けられています。具体的には①ゆっくりと進行する、②初期は物忘れで発症する、③進行すると時間や場所、物事の手順が分からず、見た物が理解出来ない、④意欲がなくなり抑うつ的になる、などが典型的な臨床経過と言えます。
記憶障害は約束を忘れたり、物の置き場所が分からなくなったり、話したことを忘れて同じ話を何度も繰り返します。近時記憶とは対照的に遠隔記憶は比較的保たれるので、昔のことはよく覚えています。時間→場所→人の順に認識出来なくなり、物事の手順が分からなくなるので仕事や家事にも支障をきたします。建物や標識を見ても、その種類や意味を理解出来なくなるので、近所でも迷うようになります。次第に会話が通じなくなり、最終的には無言になってしまうこともあります。
また、認知機能の低下に伴ってうつ病を合併したり、反対に怒りっぽく興奮しやすくなる人もいます。幻覚や妄想などでパニックになることもあり、こうした認知症に伴う行動・心理症状をBPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementia)と呼び、対処に困った場合は精神科や認知症専門病院を紹介することもあります。
従来のアルツハイマー型認知症の治療法
主なアルツハイマー型認知症の治療薬にはコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の二系統があり、共に認知機能の改善が証明されています。コリンエステラーゼ阻害薬はドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの三種類があり、認知機能に加えて意欲を改善し、幻覚や妄想にも効果があります。下痢や食欲低下などの副作用が出ることもありますが、貼付剤もあり患者様に合った治療薬を選択出来ます。NMDA受容体拮抗薬はメマンチンのみですが、認知機能の改善だけでなく行動・心理障害であるBPSDにも効果があり、中等症以上のアルツハイマー型認知症に適応があります。
これらのアルツハイマー型認知症の治療薬は低下した脳の機能を部分的に改善させる効果がありますが、疾患を治している訳ではありません。つまり、「認知症の原因を根本的に治したり、進行を遅らせたり」することは出来ませんでした。
新しいアルツハイマー型認知症の治療法
近年、アルツハイマー型認知症は脳においてアミロイドベータ(Aβ)と呼ばれるタンパク質が過剰に溜まることによって引き起こされると考えられるようになりました。健常人の脳でもAβは産生されていますが、バラバラの状態のままで脳から取り除かれます。しかし、アルツハイマー型認知症の脳では何らかの原因でAβがかたまりになってしまい、脳の中に溜まっていくことが分かっています。このAβのかたまりが脳の神経細胞の機能を障害し、やがて神経細胞の数が減り、脳の萎縮が進むとされています。
かたまりになってしまったAβを脳から取り除くことでアルツハイマー型認知症の根本治療が出来るのではと、多くの研究者が努力を重ねてきましたが、2023年12月にレカネマブと言う薬が日本でも発売になりました。これはかたまりになったAβを認識する抗体医薬と呼ばれていて、外からウイルスや細菌が体内に侵入した時と同じように、抗体がくっついたAβは自分自身にとっては異物として免疫反応が起こり、除去される仕組みになっています。まだ疾患の進行を完全に止めることは証明出来ておらず、少数ながらも脳炎や脳出血の合併症が報告され、高額な治療であるなど課題は多くありますが、念願の根本治療につながる第一歩として世界中でこの薬の効果に注目が集まっています。当院でも軽症の患者様から投与を開始しており、徐々に適応を拡大しています。
エーザイ株式会社 患者向け資料より
認知症なのでは?困ったら脳神経内科に相談を
高齢化に伴い、認知症は身近な疾患となっています。認知症かも?と感じられた場合は、身近な家族と一緒に脳神経内科を受診されることをお勧めします。
当院の脳神経内科は常勤の脳神経内科専門医を3名抱え、日本神経学会の教育施設に認定されています。歴史的にパーキンソン病などの神経変性疾患の診療経験が豊富であり、必要に応じてリハビリテーションや医療ソーシャルワーカーなどとも連携して認知症や難病の患者様の生活の質(ADL)を向上させる事を目指しています。心配な事があれば、是非受診を検討ください。
1.認知症疾患診療ガイドライン2017. 「認知症疾患診療カイトライン」作成委員会. 医学書院.
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