病気のはなし
『肺がんと診断されました。』手術できる肺がんとは?
肺がんは年間12万5100人が罹患され、大腸がん、胃がんに次ぐ3位で、がん死亡数予測では1年間に7万7750人が亡くなり、がん死亡者数1位が長年続く難しい病気です (2018年がん統計予測 国立がん研究センター)。
根治を目指すには手術が必要であるのですが、40%ほどが手術できて、60%が手術できないのが現状といわれています。では、どのようなときに手術ができて、どのような時に手術ができないのでしょうか。理由は大きく2つ挙げられます。大原則として、手術で取り切れる範囲内にがんがとどまっている病期(進行ぐあい)であることです。せっかく、手術をしても取り残してしまうとすぐにがん細胞はむくむく育ってしまいます。そのため、例外はありますが、術前の正確な病期診断が必要になってきます。もう一つは手術に耐えうる体力があるかどうかという問題になってきます。がんをきれいに取り除きました。でも退院できないのではなんのための手術かわからなくなってしまいます。そのため、手術前検査が重要になってきます。ではこれらをもう少し、詳しく、説明していきましょう。
①手術適応となる肺がんの病期(ステージ)
なぜ、肺がんの60%で手術が不可能なのでしょうか?それは、肺がんは無症状で進行し、また、がんの性質上、転移を起こしやすいからだと言われています。肺・気管支の中心に発生する中心型肺がんは咳、血痰が早いうちから出現しますが、近年、多数を占める末梢型肺がん(肺の端っこから発生)は初期では多くが無症状です。そのため、見過ごされやすく、転移して症状が出てくるためと言われています。
では手術で取り切れる病期(ステージ)はというとI期、II期、そして、一部のIII期 となります。I期はがん病巣が転移がない状態で、II期は肺門までのリンパ節転移があるときやがんが5㎝以上のときなどです。
M因子(遠隔転移)
M0 | 転移なし |
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M1a | がんのある反対側の肺への転移、胸膜・心膜の結節、がん性胸水・心嚢水 |
M1b | 肺以外のほかの臓器へ1個だけの転移 |
M1c | 肺以外の1臓器、もしくは、複数臓器への複数の転移 |
T因子(腫瘍の大きさと浸潤)
Tis | 浸潤部がないすりガラスのみ |
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T1mi | 浸潤部5mm以下 |
T1a | 浸潤部10mm以下 |
T1b | 浸潤部20mm以下 |
T1c | 浸潤部30mm以下 |
T2a | 30mmを超え、40mm以下 |
T2b | 40mmを超え、50mm以下 |
T3 | 50mmを超え、70mm以下 |
T4 | 70mmを超えるがん |
N因子(リンパ節転移)
N0 | 転移なし |
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N1 | 肺内・肺門リンパ節(肺につくリンパ節)に転移 |
N2 | 同側(肺がんのある側)縦隔リンパ節転移 |
N3 | 対側(肺がんがある反対側)縦隔リンパ節・鎖骨上リンパ節転移 |
肺がん病期TNM分類(第8版)
病期診断のため、有効な検査方法はCTが必須となってきます。胸部での広がりはもとより、腹部臓器への転移の有無も調べています。また、II期以上となると脳MRI、骨シンチも有効となってきます。また、PET/CTで全身の転移検索も有用です。
最も多く行われている標準的な手術は、病巣のある肺葉を切除する肺葉切除と周辺のリンパ節を取り除くリンパ節郭清です。当院では、多くのケースで低侵襲(体の負担の小さい)の胸腔鏡下主体の手術(4つの穴)を行っています。入院から退院までおおよそ、5日から7日くらいです。
②手術するにあたって、必要な検査
まず、必須なのが肺機能検査です。手術前の肺活量がどうであるかは非常に重要なポイントとなります。肺気腫を合併している肺がんでは肺活量が低いことも散見されます。また、高齢化社会となり、さまざまな呼吸器疾患を合併していることもあり、例えば、昔罹患した結核のため、肺機能が著しく低いこともあります。そうした場合、術前に呼吸機能訓練で改善を試みて、再検して、基準をクリアしたら手術に臨んだり、場合によっては、標準術式の肺葉切除でなく、病巣のみを切除する部分切除に留めたりすることもあります。それも厳しいときは放射線療法をお勧めすることもあり、当院でも可能です。肺活量だけの問題ではありませんが、間質性肺炎合併肺がんでややリスクが高い場合には、呼吸器内科と協力して、術前、術後管理を行い手術します。
次に大事なのは心臓のチェックです。多くは心電図のチェックで済みますが、循環器疾患をお持ちの方、冠動脈ステントが入っている方などは心臓超音波検査や循環器内科に併診して、心臓の状態をチェックしています。
また、糖尿病で血糖のコントロールが不良のときは手術の少し前に入院していただき、代謝内分泌内科で血糖をコントロールした上、手術に臨み、術後も一緒に診てもらうようにしています。
そのほか、様々な疾患を合併していることがあると思いますが、当院では呼吸器外科専門医、がん治療専門医、呼吸器専門医、呼吸器内視鏡専門医による最新の診療を基盤に、ガイドラインに基づいた治療を行っております。肺がんの診断から治療まで全てを網羅できる体制(呼吸器外科、呼吸器内科、放射線治療部、病理診断部)を敷いております。また、当院は総合病院ですので各科のスペシャリストが常在し、診療科同士の垣根も低く、併診して、肺がん治療に臨んでおりますのでどうぞご安心ください。お問い合わせ、ご質問等ございましたら、どうぞ、いつでも呼吸器外科の加藤まで。
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