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病気のはなし

小児のお熱と、ご機嫌の話

2023年6月

部長 谷田川 聡也

みなさまいかがお過ごしでしょうか。新型コロナによる行動自粛が少しずつ解け、それにつれて熱を出す子供たちがにわかに増えて、小児科外来の景色もずいぶん様子が変わりました。幸い、その子たちのほとんどは重症でなく自力で回復し、また日常に戻ってくれています。小児科外来では、そんな子たちと保護者のみなさまのお手伝いをしています。

発熱とかぜ薬

熱が出たら、大人でもまずは無理をせず、ちゃんと休む。これが常識になって久しいですね。医療者としてはとても喜ばしいことだと思っています。ほんの数年前までは、市販のかぜ薬を「体調が悪くても休めないあなた」向けに広告さえしていました。無理をするために薬を利用するやり方は決しておすすめできません。

さて、市販のかぜ薬には、解熱鎮痛作用を持つ成分が含まれます。これらの薬剤は1日2回ないし3回の服用が一般的です。すると、解熱剤が効いた状態を日中は維持することになります。
子供向けのかぜ薬はどうでしょう。もしお手近に小児用のかぜ薬があれば成分表を確かめてみてください。「総合かぜ薬」の多くには、アセトアミノフェンが配合されていると思います。しかしその量は、医療用医薬品として処方する用量より少なく決められています。小児に使用する薬剤の量は体重によって決められることが多いのですが、小児向けの市販薬の用法指示ではさらに少ない量であることが多いようです。「子供の熱を下げる」という目的で薬を求めるならば、ひょっとしたら少し物足りなく感じるかもしれません。では、子供たち向けのかぜ薬には本当に熱を下げる成分が必要なのでしょうか?

発熱する過程

かぜ、と通常呼ばれるのどや鼻の炎症症状の原因は9割がたがウイルス感染です。口や鼻を通じて侵入したウイルスは粘膜で自分の仲間を増やします。人間の体はこれらの外敵に対応するため、さまざまな反応を起こします。体温を上昇させるのもそのひとつです。
おおまかに言って、いわゆる普通の「かぜ」の経過では、鼻水が2,3日増えながら続いて、やがて発熱します。熱は上がり下がりしながら1日から4日ほど続き、回復していきます。一方で、インフルエンザやオミクロン系統の新型コロナのウイルス感染症ではこれらの経過が少し急で、鼻水や悪寒がしてから熱が出るまでに丸一日はかからないことが多いですね。
原因ウイルスによる経過の差はありますが、発熱がある場合には必ず体温が上昇する過程があります。さっきまで36℃だった体温が、次の瞬間には39℃になっている、こういったことは起こらないわけです。人体が体温を上げるためにはある程度の時間がかかります。

さて、どうやっても泣き止まない子供の体温を測ったら高熱だった、こうした経験はありませんか?子供の不快感は、実はこの体温が上がっていく過程にあることが多いのですね。自律神経の働きで、熱が上昇していく過程では手足の末端の血管が縮んで冷たくなり、その一方で首筋や体幹の熱感が非常に強くなっていきます。大人であればこの状態で自覚するのは、寒気、悪寒です。ところが小さいお子さんの場合は感覚を説明できず、つらさを泣いて訴えます。この寒気による不快感が数十分は続くため、ギャン泣きもそうそうやみません。保護者のみなさんが子供のこうした状態を見守ること自体、とてもつらいと思います。ただし、小児科では解熱剤の使い方にちょっとした工夫をおすすめしています。

解熱剤の使い方

当科では現在、夜間の診療体制を取ることができていません。それでも、病気の子を看病する保護者のみなさまには、安心して夜を過ごしていただきたいと思っています。ここに書くことは、外来で私がご説明していることと同じ内容です。

まず、熱の出初めに機嫌が悪くなった場合は、まず様子を見ていただきたいと思っています。手足が冷たい場合には掛物で保温し、調節してください。体温が安定して手足の先の緊張がゆるみ、あたたかくなってくるまでは意識の状態を確認しながらじっと様子を見て、待ちます。2時間くらい経てば多くの場合、お子さんの機嫌は直っていきます。熱が上がっていく最中は食事も摂れない、水も飲まない、場合によっては1、2回吐いてしまうかもしれません。しかし熱が当初よりずっと高くなるころには、寒気が去り不快感が軽くなっていくのです。笑顔が戻ってきたり、ぐっすり眠っていたりすれば、ひとまず熱が高いこと自体を心配する必要はありません。よほどの高熱(41℃台後半以上)でない限り、発熱自体が病気を悪化させることはないのです。手足があたたかいことを確認したら今度は、少し薄着にしてください。お水も飲ませてください。

解熱剤がまだ登場していませんね。実は、熱だけを理由に解熱剤を使う必要はないのです。解熱剤にはよい面もよくない面もあるからです。
当科では解熱剤を使用する目的を「体力を保つため」「痛みを軽くするため」の2点に絞ってお話をしています。
多く用いられているアセトアミノフェン製剤の効き目は、比較的穏やかです。効き目の持続も4~6時間になるように調節しています。ですから、効き目は必ず切れます。間断なく解熱剤を効かせてしまうと、今度は病気の悪化に気づけないリスクを負うことになり、自分の症状をうまく訴えられない小児にとっては無視できない危険を生むことも考えられます。

さて、解熱剤の効き目が切れれば熱は再び上昇します。場合によっては最初の寒気が同じようにやってきてしまいます。なので、使う場面をある程度絞り、熱がつらくて食べられない、あるいは喉が痛くて飲めない、眠れない、こういう状態への対処に限って解熱剤を活用するようおすすめしています。熱さましで稼いだ時間でお子さんの体力を保てば、かぜをお子さん自身の体力で治していけます。
逆に言えばあまりおすすめでないのは、放っておいても寝そうな時にとりあえず熱さましを飲ませる、という使い方です。これをしてしまうと、飲ませて4~6時間後、真夜中すぎにお子さんが寒気の不快感で泣いて目を覚ましかねません。お子さんだけでなく、家族全員の体力が失われてしまいます。熱があっても眠れるときは、熱さましを使わずそのまま寝かせてあげてください。

おわりに

発熱は、人体が病気に立ち向かう反応のひとつです。それでも、発熱やそれに伴う症状で不快感を生じることはあります。お薬は特性を知ってうまく活用し、回復の助けにしてください。

詳しくはこちらの診療科にて

小児科

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