病気のはなし
脂肪肝と糖尿病
糖尿病患者さんの死因としての肝癌
糖尿病は、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の主要な危険因子であり、北米では糖尿病患者さんの死因の第1位は心疾患です。一方で、2001年から2010年までの10年間における日本人の糖尿病患者さんの死因に目を向けてみると、第1位は悪性新生物の38.3%です。その悪性新生物での臓器別内訳を見ると、肝癌が6.7%で第2位でした(第1位は肺癌の8.9%)。2016年の人口動態統計によると、日本人全体における肝癌による死亡率は、悪性新生物中、肺、大腸、胃、膵臓に次いで5番目であり、糖尿病患者さんの死因の中で肝癌の割合が増加していることが分かります。
脂肪肝と糖尿病
ここで重要なポイントは、糖尿病患者さんにおける脂肪肝を有している割合(有病率)です。我が国では、肥満人口の増加を背景に男性の約25%、女性の約12%が飲酒を伴わない脂肪肝疾患を有していると言われています。飲酒(アルコール摂取)をすることで肝臓に負担がかかることは、広く知られていると思いますが、飲酒をしないにも関わらず飲酒しているように肝臓に負担がかかっている病態があり、これを「非アルコール性脂肪肝疾患(英語ではNAFLD;Non-alcoholic fatty liver disease)」といいます。糖尿病とNAFLDはいわばコインの裏表のような関係です。本邦で行われた多施設研究によると、NAFLD患者において糖尿病罹患率は47.3%というものもあり、またNAFLDによって2型糖尿病の発症リスクは2倍になるという報告もあります。つまり脂肪肝と糖尿病は互いに密接に関わっているといえます。
NAFLD/NASHからの肝発癌
本邦においても戦後の食習慣の変化と運動量の減少などに起因する肥満人口の増加に伴い、NAFLDは近年急速に増加しています。つい20年ほど前までは、NAFLDは良性の経過をたどると考えられており、実際に肝硬変や肝癌合併を起こすことは稀でした。しかし、NAFLDの増加とともに、炎症や線維化(肝臓が硬くなること)が合併し、進行性に肝硬変や肝癌を発症する病態が認知され、それを「非アルコール性脂肪肝炎(NASH;Non-alcoholic steatohepatitis)」といいます。NAFLDの状態からの発癌率は低いですが、NAFLDのうち、NASHでかつ肝硬変を合併すると、発癌率は年1%以上に上昇します。同じ病気の患者さんが100人いると、1年後には100人中1人以上発癌するという割合です。B型肝炎やC型肝炎などのウイルス肝炎からの肝癌合併が多かった時代から、近年はNASHを主因とした肝発癌が多い時代へと変遷しております。
NAFLD/NASHをみつけるためには
NASH由来の肝癌をみつけるためには、NAFLDの中からNASH特にNASH肝硬変をみつける必要があり、そのためには高度肥満者を対象に腹部超音波検査を行うことによって進行したNASHを発見できる可能性が高くなるといわれています。そもそもNAFLD/NASHには自覚症状がありません。先述の通り、NAFLDと2型糖尿病には密接な関係があるため、糖尿病を有する患者さんで脂肪肝を指摘された場合は注意深く経過をみる必要があります。また、人間ドックや健康診断などで行われる腹部超音波で脂肪肝を指摘された場合には、一度専門医での診察をお勧めします。
NAFLD/NASHの治療は
NAFLD/NASHを含め、いわゆる脂肪肝には確立された治療薬がありません。2021年現在、脂肪肝の唯一の治療としてダイエットが挙げられます。時代の変遷により、“瘦せ薬”や“内臓脂肪を燃焼させる”といった宣伝文句のあるダイエット商材を多く目にすると思います。“甘い”モノや言葉に惑わされないことが重要です。
まとめ
当院においても例に洩れず、脂肪肝、糖尿病を合併している患者さんで肝癌がみつかる頻度が高くなっております。糖尿病で通院していた患者さんに突然肝癌がみつかることもあります。脂肪肝や肝障害を指摘された患者さん、また肝障害はないものの糖尿病を合併している脂肪肝の患者さんは、専門医による診察をお勧めします。
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