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病気のはなし

高齢者のてんかん

2020年4月

統括部長 織茂 智之

はじめに

てんかんは子どもの病気と思いがちですが、高齢者でもてんかんは発症します。2000年頃から高齢者のてんかんが小児のてんかんを上回るようになり、今日では高齢者の発症率が最も高いと報告している研究もあります。高齢者のてんかん発作は、けいれんを伴わない(非けいれん発作)ことがあるために見逃されることが少なくありません。今後、ますます高齢化が進むことで高齢者のてんかんも増加すると推測されています。本稿では、まずてんかん全般について解説し、次に高齢者てんかんについて説明します。

てんかんとは

てんかんとは、世界保健機関(WHO)の定義によると、脳の神経細胞に突然発生する激しい電気的な興奮により繰り返す発作(てんかん発作)を特徴とし、これに様々な臨床症状や検査の異常を伴う「脳の慢性疾患」と定義されています。年齢、性別、人種に関係なく発症します。「てんかん発作」が起こったときの症状は、大脳の電気的な興奮が発生する部位によって様々です。たとえば、いわゆる「けいれん」と呼ばれる手足をガクガクと一定のリズムで曲げ延ばしする間代発作(かんたいほっさ)や、手足が突っ張り体を硬くする強直発作(きょうちょくほっさ)、あるいは突然非常に短時間の意識消失が起こる欠神発作(けっしんほっさ)、全身や手足が一瞬ピクッとするミオクロニー発作、感覚や感情の変化、特殊な行動をするなどいろいろな症状があらわれる複雑部分発作など、極めて多彩です。ただしてんかん発作時の症状は、それぞれの患者でほぼ一定のパターンをとり、同じ発作が繰り返し起こることが特徴です。また、発作中は脳内の電流が乱れているために脳波を測定すると異常な波(棘波など)が現れ、てんかんの診断に用いられます。

部分発作

高齢者てんかんで多く見られる部分発作について説明します。過剰な電気的興奮が脳の一部に限局して起こる発作です。意識がはっきりしている単純部分発作と、意識障害を伴う複雑部分発作に分けられます。また部分発作の中には、限局した部位の過剰な興奮が大脳全体に広がり、部分発作に続いて全般発作がみられるものがあり、二次性全般化発作と呼ばれます。

(1)単純部分発作

患者は意識があるために、発作の始まりから終わりまでの症状をすべて覚えています。過剰な電気的興奮を起こす部位によって、運動機能の障害(手足や顔がつっぱる、体がねじれる、けいれんする、回転する等)、視覚や聴覚の異常(光が見える、チカチカする、音が響く、カンカンと音が聞こえる等)、自律神経の異常(頭痛、吐き気を催す、よだれが出る等)など多彩な症状がみられます。

(2)複雑部分発作

意識が次第に遠のいていき、周囲の状況がわからなくなるような意識障害がみられる発作です。患者には記憶障害がみられます。しかし、意識障害中に倒れることは少なく、 たとえば、急に動作を止めて顔をボーっとさせるといった発作や、辺りをフラフラと歩き回る、口をモグモグさせるといった無意味な動作を繰り返すなどの症状がみられます。

(3)二次性全般化発作

単純部分発作または複雑部分発作の症状から始まり、強直間代発作に進展します。発作が始まる前に「前兆」がみられ、意識が消失します。

高齢者てんかんとは

高齢者のてんかんとは、過去に発症したてんかんが継続している場合と、高齢になって新たに発症したてんかん(高齢者てんかん)の2つがあります。本稿では、高齢者てんかんとは、特に断りがない限り、高齢(65歳以上)になって新たに発症したてんかんを指すことにします。高齢者てんかんの原因は若年者とは異なり、脳血管障害が30〜40%、次いで頭部外傷、アルツハイマー型認知症、脳腫瘍などがありますが、1/3は明らかな原因が不明です。高齢者てんかんには若年者のてんかんとは異なる特徴があります。即ち、けいれんを伴わず、ボーッとする、無反応状態などの症状のことが多く、認知症と誤診されたり、的確に診断されない事があります。今後ますます高齢化が進むことで、高齢者てんかんも増加すると推測されています。

高齢者てんかんの症状

てんかんは、大きく、部分てんかん(局在関連てんかん)と全般てんかんに分けられます。そして、発作を引き起こす原因によって、特発性(明らかな脳の病変が認められない場合)と症候性(明らかな脳の病変が認められる場合)に分けられます。高齢者てんかんは、ほとんどが部分てんかんで、さらに多くは複雑部分発作というタイプです。これは、けいれんを伴わない目立たない発作が特徴で、前兆症状は少なく、ボーっとする、不注意になる、もうろうとする、無反応になる、奇異な行動を起こすなどで、このような発作の後に意識がもうろうとした状態が数時間~数日続くことがあります。従って、認知症と誤診されることもあります。

高齢者てんかんの診断

高齢者てんかんにおいても、発作時の状況を詳しく問診することが重要です。本人は説明できないことが多いので、てんかん発作前、最中、その後の状況を家族やまわりに居た人から詳しく説明してもらいます。その上で、神経学的な診察を行い、脳の画像検査(CT、MRIなど)、脳波検査を行います。既往歴や現在服用している薬剤があれば医師に伝えます。できればお薬手帳があるとよいでしょう。

画像検査では、MRIはCTではとらえにくい部分を見ることもでき、また微細な脳の異常をとらえることができるため、MRIを撮る事をお勧めします。MRIにより、てんかんが起こる焦点(てんかんの電気的な興奮が起こる場所)がどの部分にあり、そこがどのような状態になっているのか、などについて調べることができます。例えば、腫瘍が見つかり、切除することでてんかんが治ることもあります。

脳波検査はてんかんの診断では最も重要な検査です。脳波は脳の神経細胞が出すわずかな電流ですが、それを記録することで脳の異常を診断します。正常な時の脳波は小さなさざ波のような波が記録されますが、発作が起こる時にはいくつかの神経細胞が同時に電気を出すために大きな電流が流れ、棘(とげ)のようにとがった波「棘波:きょくは」や、やや幅の広い大きなとがった波「鋭波:えいは」などがあらわれます。このような通常とは違った波のうち、てんかん発作に関係すると波を「発作波」と呼びます。

高齢者てんかんの診断は、詳しい病歴によりてんかん発作を疑い、てんかん発作に似た他の症状や疾患を鑑別し、脳波検査で発作波を確認すれば診断できます。

高齢者てんかんの治療

高齢者てんかんは、前述のように診断がつきにくいという問題があります。また発作やそれに伴う意識障害が長引き、脳に障害を与える危険性もあります。発作中に転倒し、骨折やけがをする可能性もあります。従って、適切な診断と治療が重要です。一般的には、初めてのてんかん発作の場合には抗てんかん薬を処方せずに経過観察し、2回目以降に治療します。高齢者てんかんの場合には、初回発作後の再発が多い事から、初回発作後から抗てんかん薬を処方します。

詳しくはこちらの診療科にて

脳神経内科

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