病気のはなし
膵臓がんの早期発見について
近年増加傾向にある膵臓がんについてお話しします。
膵臓がんの状況
膵臓がんは年間4万人に発見され、臓器別にみるとその死亡者数は日本で4番目に多いがんです。男性では肺、胃、大腸に次いで第4位、女性では大腸、肺に次いで第3位です。患者数は年々増加しており、いまでは胃がんや大腸がんと同じくらいありふれた病気となってきました。一方で、医学の進歩に関わらず未だに治癒する患者が少なく、非常に治療が難しいがんとして知られています。がんの治療成績を比較した5年生存率のデータでは膵臓がんは全がん種の中で最も悪い結果です。
全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告〔国立がん研究センターがん対策情報センター,2020〕を基に作成されたものを日経HPより転用
膵臓がんとは
膵臓は胃の背中側を走る長さ15cmほどの細長い臓器です。膵液と呼ばれる消化液の分泌(外分泌)と血糖値のコントロール(内分泌)が主な役割です。この膵臓に発生する悪性腫瘍が膵臓がんです。膵臓がんは病気ができる場所によって症状が若干異なりますが、背中やみぞおちの痛み、体重の減少、黄疸の症状をきっかけに発見されることが多いです。しかしながら、初期の段階では症状はまったくないことが多く、一方で症状が出現した時には既に病気が広がった状態であることが少なくありません。そのため症状が出現する以前の早期発見が望まれます。
MediChannelより画像引用
膵臓がんの危険因子
血液(腫瘍マーカーを含む)や尿などの検体を使用した検査の中で、現時点で膵臓がんの早期発見に有効な検査はありません。そのため現在の戦略としては病気のリスクが高い患者群を特定して、その患者に積極的な画像検査をスクリーニングとして実施する方法が採られています。膵臓がんのハイリスクとして知られている因子は、喫煙、飲酒、肥満、糖尿病、膵嚢胞(膵臓にできる水のたまった袋)、慢性膵炎が挙げられます。また、ご家族に膵臓がんの方がいる場合は膵臓がんの発症率が高いことが明らかになっております。そのため、これらの危険因子を持っている方は特に膵臓がんの出現に注意が必要です。
膵臓がんの検査方法
膵臓がんを疑う症状や健診で異常が見つかった際は、画像検査を行います。最も簡便な検査は腹部超音波検査(エコー)です。おなかにエコーを発する装置を当てて内臓の情報を得ます。エコーは人体に無害であるため広く気軽に検査を行うことができます。その反面、食事、飲み込んだ空気、脂肪が入り込むと十分な観察ができず、とりわけおなかの深部にある膵臓全体を観察することは容易ではありません。そのためエコー検査の目的としては、膵臓の部分的な観察のなかで膵管(膵臓の中心を走る管)の拡張や膵嚢胞といった手がかりを拾って、検査陽性の方に対してはより精密な検査として、ヨード造影剤を使用した造影CT検査や膵臓に特化したMRI検査(MRCP)を行って膵臓全体の評価を行い、病気の存在を特定します。また、超音波内視鏡検査(EUS)という胃カメラの先端に超音波装置を搭載した特殊なカメラで胃の壁を通して膵臓を丁寧に観察することで、食事や空気の影響を受けずに病気の性状を評価します。集まった情報から膵臓がんが強く疑われる場合には超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)という方法で確定診断を付けることができます。これは超音波内視鏡で病気の位置を確認しながら内視鏡から針を刺して病気の一部分を採取します。膵臓がんは発見時に病気が小さいと超音波で観察できない場合や針を刺すことができない場合があります。その場合は膵臓や胆管に直接カテーテルを挿入して検査を行う内視鏡的胆膵管造影法(ERCP)という方法で調べます。この方法では黄疸が出現している場合に検査と同時に黄疸を解除する治療(ステント治療)が可能です。これらの検査を通じて得られたサンプルを顕微鏡で観察して病気の良悪性を判定し、最終診断が確定します。
膵臓がんの治療方法
がんの診断後には病気の周囲への広がり、転移の有無に応じて、手術、抗がん剤、放射線治療が選択されます。年齢や基礎疾患の状況も治療の選択に大きな影響を与えます。放射線治療の仲間である重粒子線治療が2022年4月から保険承認されたことが最近のトピックです。膵臓がんは診断の時点で手術に進める方の割合が低いこと、術後に再発する割合が高いこと、抗がん剤で病気を小さくできる方の割合が低いことが問題として挙げられます。近年では手術に術前・術後の抗がん剤や放射線治療を組み合わせた集学的治療が行われており、以前よりも長期生存する方が増えてきたことを実感しておりますが、一方で先に示したようにその成績は十分とは言えません。そのため病気が「広がる前に」「大きくなる前に」発見し、診断をつけることが重要です。
膵臓がんの早期発見に向けた取り組み
膵臓がんの早期発見を自治体のプロジェクトとして取り組んでいる例をご紹介します。広島県尾道市では「膵がんプロジェクト」を2007年から実施しています。具体的には地域のクリニックと中核病院が密に連携し、膵臓がんの危険因子や腹部エコー検査、MRIなどの診断方法に関する啓発を行うとともに、地域のクリニックで危険因子を抱える患者を中心に積極的な健診を行って、そこで異常が見つかった場合は中核病院に拠点を移してCT、MRI、EUSなどでより詳細に調べるというものです。この取り組みにより尾道地区では、ステージ0、Iの早期診断例の増加、外科治療率および5年生存率の上昇などの予後の改善に向けた成果が表れています。このような病気の危険因子を利用して地域の医療連携により膵臓がんの早期発見を目指す取り組みは全国へ広がりを見せており、難治性と言われていた膵臓がんにも治療の可能性が広がるような状況に変化しつつあります。
まとめ
膵臓がんは治療の進歩により進行がんにおいても長期生存する方が増えてきた一方で、依然として治療成績は不良であり、早期発見の重要性が非常に高い病気と言えます。特に膵臓がんの危険因子を持つ場合や健診で異常の指摘があった場合は、すみやかに消化器・肝胆膵内科の専門医による診察を受けられることをお勧めします。
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