がんに対する腹腔鏡下手術
外科 塩入 利一
(緑のひろば 2012年11月号掲載)
「腹腔」とはいわゆる「おなかの中」であり、胃や腸などの臓器が存在している空間です。「腹腔鏡」はおなかの中を観察する「カメラ」で、胃カメラと同じ様な原理の器械です。
腹腔鏡下手術は、おなかの中を腹腔鏡というカメラで観察しながら行う手術方法です。
当院では、胆石症などに対する胆嚢摘出術は基本的には腹腔鏡下手術で行っており、これまでに多くの患者さんに腹腔鏡下手術を受けていただいております。
一般的な腹腔鏡下手術の方法ですが、おなかに5〜12o程の穴を数箇所あけ、空気をおなかの中に入れて膨らませたのち、腹腔内にカメラ(これが外科医の目の役割を果たします)や電気メス・鉗子(かんし)などの組織を切ったり持ったりする道具を入れて、テレビモニターを見ながら手術を行います。
最終的にはおなかから取り出す胃や腸などの切除する臓器に応じて、一部の傷を3〜5cm程に延長する必要がありますが、従来の開腹手術(おなか大きく開ける手術)の傷に比較すると、小さな傷で可能な手術といえます。
胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は20年位前に始まり、現在では標準的手術方法となりました。この技術が応用されはじめて、腹腔鏡下での胃や大腸の手術も10数年前から徐々に試みられ、ここ数年、がんに対する腹腔鏡下手術も徐々に普及してきています。
腹腔鏡下手術の特徴としては、「身体への負担が少ない手術」であることがあげられます。
傷が小さいことは、美容的に優れているだけでなく、術後の痛みが軽く、より早期の離床が可能となります。さらに、開腹術と比べ術後の胃腸の運動再開がスムーズで、早くからの食事開始が可能となり、入院期間の短縮や早期の社会復帰に役立っています。また、胃腸が癒着(胃腸がくっつき合うこと)しにくいために、長期的には腸閉塞などになりにくい等の利点もあります。また手術中にはカメラが胃腸などの組織に近接することで、細部まで観察できること(拡大視効果)により、より精密な操作が可能となることも利点の一つと考えられています。
一方腹腔鏡下手術の欠点としては、外科医が直接臓器に触れることができないことによる情報の不足や操作の制限、出血などへの対処が困難なこと、見えない部分での組織損傷が発見されにくいこと、開腹手術よりも時間がかかることによる患者さんの体力的な負担などがあげられます。がんの種類・部位や進行状況などによっては、腹腔鏡下手術を行うことが困難な場合もあります。また過去に開腹手術を行ったことがある患者さんの場合には、腹腔内の臓器が癒着していることが多いため、一般的には開腹手術を受けていただいております。
関東中央病院でもこのような腹腔鏡下手術を、胆石症などに対する胆嚢摘出術のみならず、がんをはじめとする胃腸の手術でも行っています。がんのために胃腸の手術を受けられる方は近年増加傾向にありますが、がんの種類・部位や進み具合などはみなさんそれぞれ異なっております。手術を受けられる方の年齢・体力なども含めて様々な点を考慮しながら、開腹あるいは腹腔鏡下手術など最善の治療方法を決定しております。
限られた紙面でわかりにくい点も多いと思いますので、不明な点などございましたら、外科担当医までお気軽にお尋ね下さい。