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公立学校共済組合 関東中央病院

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病気のはなし

筋萎縮性側索硬化症(ALS)について

脳神経内科 医長 阿部 圭輔

はじめに

 脳神経内科は脳や神経の病気を扱う科です。当科でよく相談される症状は頭痛、手足の痺れ、ふらつき、力が入りにくい、呂律が回らないといったものですが、そうした症状を起こす疾患に脳出血や脳梗塞、末梢神経障害などが含まれています。また、頻度が少なく非常に稀ですが、全身や一部の神経が変性してゆっくりと日常生活に支障をきたす神経変性疾患、一般に難病と呼ばれる疾患の患者様もいます。本日はその難病の中でも最も有名であり、「難病の王様」などと言われることのある疾患を紹介いたします。

ALSは全身の筋肉が衰えてしまう病気

 皆様は筋萎縮性側索硬化症(ALS; Amyotrophic Lateral Sclerosis)という疾患を聞いたことがあるでしょうか。ALSは1869年にフランスの脳神経内科医であるジャン-マルタン・シャルコー (Jean-Martin Charcot)によって初めて報告されました。中国の政治家だった毛沢東や、メジャーリーグのニューヨークヤンキースでベーブ・ルースと並ぶ主砲だったルー・ゲーリック、車椅子の物理学者スティーヴン・ホーキングが闘病していたことで有名な疾患です。ALSを発症すると身体を動かすための神経系(運動ニューロン)がゆっくりと変性、つまり壊れてしまいます。脳が全身の筋肉にいくら「動け」と指令しても神経系を伝わりづらくなり、徐々に力が入らなくなります。結果として筋肉は痩せ細っていきます。症状は進行性で、現在も原因は分かっておらず、有効な治療法はほとんどありません。1年間で新たにこの病気を発症する人は10万人当たりで約1~2.5人、男性は女性に比べて1.2~1.3倍です。最も発症しやすい年齢は60~70代ですが、ルー・ゲーリックやスティーヴン・ホーキングのように、稀に若い世代での発症もあります。多くの場合(約90〜95%)は孤発性と言って遺伝しないタイプですので、父や母、祖父母など血のつながった親族に発症者がいなければ、遺伝の心配はありません。一方でALS全体の約5〜10%は家族性ALSと呼ばれ遺伝性がありますが、孤発性ALSとは異なる特徴も多く認められます。

 ALSは全身の筋力が徐々に衰えていく疾患ですが、全ての筋力が均等に障害されていく訳ではありません。最初に手足が動きにくくなるタイプと、球麻痺といって話したり、飲み込むことが難しくなるタイプに分けられます。おおよそですが手足の筋力低下で発症するものが4分の3、残りの4分の1が球麻痺で発症します。どちらのタイプも数ヶ月〜数年で全身の筋肉に障害が拡がりますが、球麻痺で発症するタイプの方が呼吸筋麻痺が重度になる傾向があるので予後は良くありません。最終的には全身の筋肉が痩せ、物を掴んだり寝返りを打つことすら難しくなります。球麻痺が進行すると、声を出すための喉の筋肉が麻痺して発語が不明瞭になり(構音障害)、水や食べ物の飲み込みが難しくなり(嚥下障害)、誤嚥性肺炎を発症します。最終的に呼吸する筋力が弱まると徐々に体内に二酸化炭素が貯留し、眠るように亡くなってしまいます。ALSで障害されるのは運動神経のみですので、進行しても視力や聴力、体の感覚に異常はなく、多くは認知機能に異常がないので、徐々に身体が不自由になっていく自分自身を明晰な頭脳で認識出来る点が難病の王様と呼ばれる由縁です。

ALSの治療法

 ALSは原因が分かっておらず、根本治療も未だに確立していません。しかし効果は限定的ですが、我が国ではALSの進行の抑制を期待出来る薬剤が認可されています。リルゾール(商品名 リルテック)は飲み薬で、治療開始により生存期間あるいは人工呼吸器を着用するまでの期間の延長が示されています。また、エダラボン(商品名 ラジカット)は注射薬を連日投与する点が難しいのですが、使用により生活機能スコアの改善が示されています。毎日のリハビリテーションにより筋力の維持や、二次的に生じる関節の痛みの改善も期待できます。まだ十分に普及していませんが筋力低下を補うロボットスーツの開発も進んでおり、HAL医療用下肢タイプが2015年に医療機器として承認され、2016年から歩行運動処置として保険適用されています。進行期には声を出す事が難しくなりますが、全身の筋力に比べて目やまぶたを動かす筋力は最後まで保たれていることが多いので、言葉を話せなくなったALS患者とのコミュニケーションのために古くから文字盤が使用されています。技術の進歩した現代ではまばたきや頭の傾きなどの小さな随意運動をセンサーで拾って入力スイッチとして活用する装置も開発されています。将来的には脳波や脳血流、皮膚表面の電位などを入力スイッチとする技術の実用化も期待されています。最終的に呼吸筋力が低下して自力での呼吸が難しくなった場合は、鼻マスクや気管切開による人工呼吸で呼吸を補助する必要がありますし、誤嚥性肺炎を発症するなどして安全かつ十分な食事摂取が出来ない場合には胃瘻を造設して直接栄養剤を胃に注入する方法があります。ただし、人工呼吸器や胃瘻を造設したとしても病気の進行が止まる訳ではありませんし、一般には延命治療に該当します。意思表示が可能な内に本人と家族の間で、こうした延命治療を行うかの十分な議論が必要です。

ALSなのでは?困ったら脳神経内科に相談を

 現代ではインターネットを通じて簡単に情報を入手する事が出来るせいか、「自分はALSなのではないか?」と心配して脳神経内科を受診される患者様が毎月のようにいらっしゃいます。年間に10万人に1人程度しか発症しない稀な疾患なので、そうした方の大部分はALSではありませんが、一方でなかなか医療機関を受診されず必要な治療や判断を行う時間的余裕を失ってしまうケースも多々あります。当院の脳神経内科は常勤の脳神経内科専門医5名を抱え、さらに歴史的にパーキンソン病を始め神経変性疾患の診療経験が豊富である事が特色であり、リハビリテーションや医療ソーシャルワーカーなどと連携して難病患者の生活の質(ADL)を向上させる事を目指しています。「もしかしたら?」と思い当たる事があれば、是非受診をご検討ください。

詳しくはこちらの診療科にて