病気のはなし
脂肪肝と糖尿病
糖尿病と肝臓がんの関係
糖尿病(今回は2型糖尿病のお話です)は、心臓の病気(狭心症や心筋梗塞など)を引き起こしやすく、北米では糖尿病の患者さんの亡くなる原因で一番多いのが心臓の病気です。
一方、日本では、2001年から2010年までの統計によると、糖尿病の患者さんの亡くなる原因の1位は「がん(悪性新生物)」で、その中でも肝臓がんは2番目に多くなっていました(1位は肺がん)。また、2016年の日本全体の統計でも、肝臓がんは5番目に多いがんによる死亡原因となっています。
これらのデータから、糖尿病の方が肝臓がんになるリスクが高まっていることがわかってきました。
脂肪肝・MASLDと糖尿病のつながり
糖尿病の患者さんの中には、「脂肪肝」がある方がたくさんいらっしゃいます。脂肪肝とは、肝臓に脂肪がたまりすぎてしまった状態のことです。日本では、肥満の方の増加にともなって、男性の約4人に1人、女性の約8人に1人が、お酒を飲まなくても脂肪肝になる非アルコール性脂肪肝疾患(英語ではNAFLD;Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)という病気になっている可能性があります。これまでNAFLDという名前で呼ばれていましたが、欧米ではNAFLDの「A」を指す「Alcoholic」は「飲んだくれ」、「F」を指す「Fatty」は「太っちょ」のような意味合いも持つため、2023年からは代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD:Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease)という新しい名前が使われるようになりました。最近の研究では、脂肪肝(MASLD)と糖尿病は非常に深い関係にあることがわかってきました。ある日本の研究では、脂肪肝の方の約半数が糖尿病を持っており、また脂肪肝があることで糖尿病になりやすくなる、という報告もあります。
MASLDから進む肝臓の病気
以前は、「脂肪肝はそれほど怖くない」と思われていた時期もありましたが、近年では脂肪肝が悪化して、肝臓が炎症を起こしたり、かたくなってしまったり(線維化)することがあるとわかってきました。そのように脂肪肝(MASLD)が進行した状態を代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH:Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis)と呼びます。さらに、MASHが進むと肝硬変や肝臓がんを引き起こすことがあります。MASLDの段階では肝臓がんのリスクはそれほど高くありませんが、MASHになり、肝硬変まで進むと、1年に100人のうち1人以上が肝臓がんになると言われています。これまで肝臓がんといえば、B型やC型肝炎などのウイルスが原因のことが多かったのですが、最近ではMASHが原因の肝臓がんが増えてきているのです。
MASLD/MASHを見つけるには?
MASLDやMASHは症状がほとんどないため、気づかないうちに進行していることもあります。特に、肥満がある方や糖尿病のある方で、健診などで「脂肪肝」を指摘された方は要注意です。定期的におなかの超音波検査(エコー)を受けることで、肝臓の状態を詳しく調べることができます。脂肪肝が見つかった場合は、「ただの脂肪肝だから大丈夫」と安心せず、一度、消化器や肝臓の専門医の診察を受けることをおすすめします。
MASLD/MASHの治療について
2025年現在、脂肪肝のための特別なお薬はまだ開発されていません。そのため、もっとも効果的な治療法は「生活習慣の改善」=ダイエットになります。「これを飲めばやせる」「脂肪が燃える」など、魅力的な宣伝のある商品がたくさんありますが、そういった“甘い言葉”にまどわされず、医師や管理栄養士と相談しながら無理のない生活改善を目指しましょう。
最後に(まとめ)
私たちの病院でも、糖尿病と脂肪肝の両方がある患者さんに、肝臓がんが見つかるケースが増えてきています。なかには、糖尿病で通院されていた方が、ある日突然「肝臓がん」と診断されることもあります。
「脂肪肝があると言われたけど放っておいた」「特に症状はないから大丈夫」と思っている方も、糖尿病がある場合は特に注意が必要です。
少しでも不安がある方は、ぜひ一度、専門医にご相談ください。早めの発見・対応が、ご自身の健康を守る第一歩になります。
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