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病院広報誌

緑のひろば

2016年11月号

メンタル(心)を病むということ

メンタルヘルス科 秋久 長夫

 メンタルの病気と聞いて、皆様にはどのようなイメージが思い浮かぶでしょうか。自分が、または身近な人がメンタル不調を経験されたことがある場合は、その際の状態が思い出されるかもしれません。しかし、実際には良く分からないという方が多いのではないでしょうか。今回はメンタル不調全般について、私が普段、診察室でお話させて頂いている内容のエッセンスをお伝えします。

 まず、どのようなメンタル不調があるのか3つに分類してお話します。
@外因性:脳の実質的変化(脳腫瘍、脳卒中、神経変性疾患など)や、身体の病気(バセドウ病、肝臓病、膠原病など)に伴うメンタル不調があります。もちろん、この場合は身体の治療が優先されます。また、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症もここに含まれます。
A心因性:悩み、ストレス状況など心理的葛藤から様々な症状が生じるもので、神経症(ノイローゼ:ドイツ語)と呼ばれています。気分変調症(抑うつ神経症)、強迫性障害(強迫神経症)、不安障害(不安神経症)、身体表現性障害(心気症も含む)、解離性障害(ヒステリー)などが含まれます。これらは、それぞれに特徴的な症状により診断されますが、1つの症状のみが出現することは、むしろまれで、複数の症状がオーバーラップすることの方が多いです。また、比較的に原因が明らかな重度ストレス反応、適応障害もここに含まれます。
B内因性:@、Aにも当てはまらず、脳に何らかの病的変化(@のような実質的変化ではない)が起きているであろうと考えられるメンタル不調があります。そして、われわれは伝統的に、これらを(狭い意味での)精神病と呼んでいます。典型的なうつ病や双極性感情障害(躁うつ病)、統合失調症などがここに含まれます。

 診療場面において、@を見逃してはならないことは当然なのですが、実際に問題となることが多いのはAとBの見極めです。例えば、うつ病(B)と抑うつ神経症(A)の区別が重要となります。なぜなら、うつ病であれば薬や電気けいれん療法が非常に有効ですが、抑うつ神経症においては薬のみ(通常、電気けいれん療法の適応とはなりません)で回復する可能性は低く、他の治療的工夫が求められるという違いがあるからです。しかし、実際にはどちらとも言い切れない方が少なくないことも事実です。そのことから、国際的な診断基準においてもうつ病(B)は「科学的にみるといくぶん疑問が残るもの」とされ、この区別を止めましょうという考えが台頭してきてもいます。しかし、われわれは、現在もこの違いを重要視しています。抑うつ神経症であるのに事実上、抗うつ薬などの薬物療法に終始していたり、うつ病であるのにきちんと抗うつ薬が調整されていなかったりといった状況がしばしば見受けられ、この区別を意識した方が、治療的メリットが大きいと感じられるからです。また、この区別を止めたために、多くの抑うつ神経症がうつ病ということにされ、昨今の「うつ病」が著しく増えたといわれる事態を招く一因ともなっています。ここで誤解の無い様に注意頂きたいのですが、この2つの診断は重症、軽症の区別ではないということです。

 少し視点が変わりますが、AとBの区別ですら、時に困難であることから、同じAに含まれる、重度ストレス反応や適応障害と抑うつ神経症の区別が更に曖昧であることは想像に難くないと思います。心理的な葛藤が元になっている場合(A)、環境の問題と、個人の問題とを同時に見据え、対策を講じる必要があります。今回は紙幅の関係で取り上げることが出来なかった、パーソナリティの偏りや発達障害などが個人的要因として関わってくることも少なくありません。

 メンタルの病気は一色ではなく、少々、難しい話になったかもしれません。しかし、日々、メンタル不調に向き合う、われわれの考えの基礎を成す部分に少しだけでも触れて頂ければと願いつつ筆をおきます。


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