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病院広報誌

緑のひろば

2009年4月号

アスベスト(石綿)による健康障害

臨床検査・病理科   岡 輝明


アスベストは、天然の鉱物繊維で、石綿(「せきめん」あるいは「いしわた」)とも呼ばれます。アスベストは、安価で、熱や酸・アルカリに強く、丈夫で加工しやすいというすぐれた特性があるため、建材(天井や壁の吹き付け材や断熱材)や車のブレーキパッドなど、あらゆる工業製品の原材料として、日本国中で大量に消費されてきました。しかし、わが国のアスベストの産出量は少ないので、カナダやブラジルから大量に輸入されていました。英国や米国ではかなり前に使用禁止、輸入禁止になっていたにもかかわらず、わが国では2005年まで輸入され続けていたのです。

アスベストが呼吸器疾患を起こすことは、以前から実はよく知られていたのですが、これらの疾患はアスベスト工場で働く労働者の病気(職業病)と思われていたので、一般にはあまりよく知られていませんでした。この問題が社会問題になったのは、2007年夏の新聞報道がきっかけでした。この一連の報道が社会に大きな衝撃を与えたのは、工場労働者だけではなく工場周辺の住民にも病気が起こっているからでした。つまり「環境ばく露」によっても病気が起こることが明らかにされたからです。天井裏の吹きつけアスベストを吸入しても、病気が起こる場合があることも明らかになり、問題の根が深いことがはっきりしてきました。

アスベストは、口から肺に吸い込まれて病気を起こします。肺は呼吸を行う重要な臓器です。左右の胸に1つずつあり、胸膜という膜に包まれています。アスベストの呼吸器疾患としては、胸膜斑(アスベスト・プラーク)、胸膜炎、胸水貯留などの胸膜の病気と肺線維症がありますが、肺線維症以外は症状も軽く、命を落とすことは少ない疾患です。

アスベストの呼吸器疾患で重要なのは、胸膜に悪性腫瘍が発生することです。悪性中皮腫と呼ばれているがんの一種で、それほど多い腫瘍ではありませんが、命を落とすことの多い疾患です。現在のところ悪性中皮腫の原因はアスベストしか知られていませんから、まさしくアスベストによる疾患です。この腫瘍は、アスベストを吸入してから40年以上経ってから発生することが知られています。忘れたころに、突然天災のようにやってくるのです。

悪性中皮腫の医学上の問題点で、最も重要なことは現在のところ有効な治療法がないことです。幸運に、ごく初期に発見されれば外科手術で治癒することもあるのですが、大部分は進行した状態で発見されるのです。現在、多くの悪性腫瘍が治る時代になってきたのに、悪性中皮腫の特効薬(抗がん剤)はまだないのです。昨年、米国ではすでに認可されているある抗がん剤がわが国でも認可され、これが悪性中皮腫に効果があると期待されていますが、今のところ日本人での結果は出ていません。

最近、悪性中皮腫に関して問題になっていることの一つは、この腫瘍は胸膜だけではなく腹膜(おなかの臓器を包んでいる膜)や心膜(心臓を入れている膜)、まれには精巣にも発生することがある点です。これまでは、呼吸器の先生方がもっぱら診療する病気であったのですが、消化器、婦人科、循環器、泌尿器の先生方にも知っておいていただかなくてはならない疾患になってきています。

私が医師になりたてのころ、悪性中皮腫はとても珍しい病気で、一生に一度みることがあるかないかだ、と先輩医師に教えられました。しかし、環境省の石綿健康被害救済に関する患者認定をお手伝いするようになって、そうではないことを実感しています。今でも決して多い病気ではありませんが、確実に増えています。わが国のアスベスト健康被害は、これら約30〜40年増加しつづけることが推測されています。

限られた紙面では全ての情報をお伝えできません。関心のある方は、下記ホームページにアクセスしてみてください。

環境省(http://www.env.go.jp/)
環境保全再生機構(http://www.erca.go.jp/)



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