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公立学校共済組合 関東中央病院

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病気のはなし

胃カメラを使って肥満症を治療する
(内視鏡的胃内バルーン留置術)

光学医療診療科 湯原 宏樹

肥満について

 “肥満(ひまん)”とは、一般的に、正常な状態に比べて体重が多い状況だけではなく、体脂肪が過剰に蓄積した状態のことをいいます。検診でよく目にしますが、肥満の判定には体脂肪量と相関する体格指数BMI(body mass index)が用いられます。BMIは、体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)で算定され、BMI 25kg/㎡以上の人が日本においては肥満とされます。(因みに海外では、BMI 25kg/㎡以上は過体重、BM30 kg/㎡以上が肥満と定義されます。)厚生労働省の調査によると、日本で、BMI 25kg/㎡以上の肥満者の割合は、男性3割、女性2割に昇ります。

内臓脂肪型肥満(リンゴ型)? あるいは皮下脂肪型肥満(洋ナシ型)?

 肥満には、主に内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の2つのタイプがあります。

 腹筋の内側、腸などの周りにつく内臓脂肪が多く溜まっているのが、内臓脂肪型肥満で、おなかがぽっこりと出た体型になります。一方、皮膚のすぐ下、腹筋の外側につく皮下脂肪が多く溜まっているのが、皮下脂肪型肥満で、下腹部やおしり、太ももに脂肪がつきやすいため、下半身太りの体型になります。一般的には、男性は内臓脂肪がつきやすく、女性は皮下脂肪がつきやすいという特徴がありますが、閉経後の女性は次第に内臓脂肪がつきやすくなります。また、皮下脂肪型と内臓脂肪型の両方とも当てはまる場合もあります。

“アディポサイトカイン”

 さらに、皮下脂肪型肥満よりも内臓脂肪型肥満の方が病気との因果関係が強いと言われています。それは、過剰な内臓脂肪の蓄積が脂肪組織由来生理活性物質であるアディポサイトカインの分泌異常を生じるからです。アディポサイトカインとは本来、脂肪細胞から分泌され、脂質代謝や糖代謝を円滑にする働きの生理活性物質をいいます。アディポサイトカインにはレプチン・アディポネクチン・TNFα・PAI-1・アンジオテンシノーゲンなどがありますが、アディポサイトカインの分泌異常は、糖尿病を引き起こしたり悪化させたりし、また高血圧を助長するのみならず、直接的に動脈硬化の進行を促進するため、心臓病や脳卒中の危険を高めるということが分かっています。

内臓脂肪型肥満の判定

 内臓脂肪の量は腹囲でおおよその推定が可能で、男性で85cm以上、女性で90cm以上では内臓脂肪量が多いとされています。しかし、内臓脂肪は外から見えず、お腹周りを測定しても実際には自分の体の中にどの程度たまっているのか知ることはできません。そこで CT 画像を利用して内臓脂肪と皮下脂肪を正確に区別することで、腹囲測定では分からない隠れ肥満を見分けることができます。CT検査で臍(へそ)の高さの断面を撮影し、正確に皮下脂肪と内臓脂肪を分離計測し、内臓脂肪量を把握します。内臓脂肪(CT検査の結果)が100 cm²以上になると生活習慣病の危険が高くなります。

肥満症について

 一方 “肥満症”とは、日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインによると、脂肪が過剰に蓄積することによって、様々な肥満に関連する健康障害を合併し、医学的に減量を必要とする病気のことです(表1)。

  1. 耐糖能障害(2 型糖尿病・耐糖能異常など)
  2. 脂質異常症
  3. 高血圧
  4. 高尿酸血症・痛風
  5. 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症
  6. 脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)
  7. 脂肪肝
  8. 月経異常,不妊
  9. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)・肥満低換気症候群
  10. 運動器疾患:変形性関節症(膝,股関節)・変形性脊椎症,手指の変形性関節症
  11. 肥満関連腎臓病
表1.肥満に関連する健康障害

 肥満症の治療法としては、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法のような内科的治療があります。しかし、肥満には生活習慣が深く関与しているため、内科的治療では体重のコントロールができない肥満症の患者さんもたくさんいらっしゃいます。そのため、肥満症の外科的治療が現在世界中で注目されています。外科的治療にはいわゆる外科手術と内視鏡治療である内視鏡的胃内バルーン留置術があります。今回われわれ光学医療診療科が施行する内視鏡治療について解説します。

内視鏡的胃内バルーン留置術とは

 胃カメラを使って、胃の中に直径が約10㎝、400~700mlのバルーン(風船)を留置する術式のことです(図1)。バルーンにはいくつかの種類がありますが、当院ではFDA(アメリカ食品医薬品局)で認可された全世界で9割以上のシェアを占める安全性の高いORBERA®というシリコン製のバルーンを使用します(図2)。

図
図1.胃内バルーンの留置手順
  1. 上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いて口からバルーンを挿入。
  2. 胃内でバルーンをメチレンブルー入りの生理食塩水(約400-700ml)で膨らませる。
  3. 直径約10㎝のバルーンを留置して胃内に十分なスペースを確保する(6か月間)。
図
図2.Orberaバルーン

 バルーンを胃の中に留置することにより胃から腸への食物の排泄される時間が長くなるために満腹感が得られ、また胃の容量が小さくなることで食事摂取量が減り、効果的に体重を減少させることができると言われています。胃内バルーンの留置期間は最長で6ヶ月間です。

対象となる人は

 一般的には、①年齢20歳以上65歳以下、②BMIが27以上、③肥満に関連する合併疾患を有していることが対象の条件となり、美容目的で行うことはできません。

効果は

 胃内バルーンを留置することにより、平均6ヶ月間で治療前体重から標準体重を引いた体重差の1/3の減量(あるいはバルーン抜去時に平均して約10㎏の減量)が可能です。また、体重増加に伴う生活習慣病にも改善効果があり、薬による内服治療から解放される人もいます。

 日本肥満学会のガイドラインでは、BMI25以上の肥満症は現体重の3%以上、BMI35以上の高度肥満症では現体重の5~10%が減量目標として掲げられていますが、内視鏡的胃内バルーン留置術によりこの減量目標を達成することが可能と考えられます。

危険性は

 最も多い副作用として、吐き気があります。胃にバルーンを留置してから数日間は一時的に吐き気がありますが、点滴や吐き気止めの薬を使うことでほとんど改善します。学会によると吐き気に耐えられなくて1週間以内にバルーンを抜去する人の割合は約5%と報告されております。

 また、胃内にバルーンが入ることで胃潰瘍ができやすくなるため、必要に応じて事前にピロリ菌を除菌したり、胃にバルーンが入っている期間は胃潰瘍の予防目的で胃薬を内服していただきます。

当院での肥満症の外科治療について

 当科では、2020年春から内視鏡的胃内バルーン留置術を開始いたします。これにより当院では、BMIが27から35の肥満症患者さんに対しては侵襲性の少ない当科の内視鏡的胃内バルーン留置術、BMI≧35の高度肥満症患者さんに対しては外科で腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(2018年から開始。保険適用)が可能になります。

 これにより、当院では肥満症の患者様に全国でも有数の充実した医療が提供できることとなりました。内視鏡的胃内バルーン留置術の詳細については光学診療科のホームページに掲載予定ですので、ご参照ください。なお内視鏡的胃内バルーン留置術は新しい治療法のため保険診療等は適用されません。

詳しくはこちらの診療科にて